ジーンズは基本的にLevi'sの501をメインに穿いていますが、同じく昔からの定番である505もよく愛用しています。
今回はその505のお話。
さて、505の特徴はなにか?と聞かれたら、皆さんはどう答えますかね。
まずは「ジップフライであること」。そしてもうひとつが、「スリムもしくはテーパードのシルエットである」というものです。
これは、ジーパンについてある程度なにかしらを知っている人には常識といえるものだと思います。
実は僕もそう思っていました。ちょっと前までは。というよりも、思い込まされていたと言ったほうがいいかもしれません。
まずジップフライであること。これは紛れもなくそのとおりです。ボタンフライの505は存在していません。
ところが、「スリムもしくはテーパードシルエットであること」。これなんですけども……
505って、本当にテーパードしてます……?
10年ほど前、アメ横の名店「ヤヨイ」で現行USA企画の505を新品で購入したんです。501はリジッドでも何度か買っているのですが、505を新品で買うのはそのときが初めてで。
それを穿いてみたときの感想は「501より生地が厚い」、そして「501より太い」ということでした。
生地が厚いというのは防縮加工がされている影響もあるのか、古着でも指摘されることはあります。ところが「501よりも太い」という点はすごく驚いたわけです。「505はテーパードなので501よりも上品に穿ける」というのはもはや常識とされているので。
でも絶対に、他に持っている501の同サイズよりも明らかに太い。着用感だけではなく、穿いて鏡を見てみればその差は歴然。どう考えたって太いものは太い。
正直ガッカリしたんです。505は細いものだと思い込んでますから。ただしリーバイスって501でも時代に応じて形やディテールをマイナーチェンジさせますから、505もそんなもんだろうと思ったんです。今はストリートっぽく太めにリニューアルされたんだろうな、くらいに。
しかしその後、他の505(すでに持っていたものやそのあと新たに買った古着など)も穿き続けるごとに、どんどん冷静に考えるようになってきたわけです。
そもそも505って、本当にテーパードしてんのか? これ…… と。
ではここで、インターネットで「Levi's 505」を調べてみましょう。
まずはリーバイスの日本の公式サイトです。
505™レギュラーフィットジーンズ | リーバイス® 公式通販
1967年からのオリジナルのジップフライ。当社で最も人気の高いストレートフィットジーンズのひとつです。505™Regular Fit ジーンズは、その伝統的なストレートレッグスタイルで多くの方々に愛されてきました。ヒップと太ももにかけてゆったりとしており、快適な着心地なのであらゆる体型にぴったりのフィットです。
とあります。
「伝統的なストレートレッグスタイル」、とのことです。スリムやテーパードという言葉はひと言も出てきません。
むしろこれまで言われている“上品で細身”というイメージと反するような「ヒップと太ももにかけてゆったり」という表現がされています。これ、僕が新品を買って穿いたときの印象そのまんまだったりします。
でもそれって、先述したように「リニューアル後の今現在の方向性」にすぎないかもしれないじゃないですか。それ以前はスリムで上品なスタイルだった可能性がある。
じゃあ過去の505はどうだったのか。
今はどんな感じなのかは知りませんけど、当時のリーバイスにはこれだけの型数が存在していました。アメリカ製のモデルも含めてこれらが町のジーパン屋さん(チェーン店も含めて)とかでも普通に買えたのだから、いい時代でしたね pic.twitter.com/Zfk13ljBPj
— Euphonica 横浜仲町台の洋品店 (@Euphonica_045) 2021年4月19日
こちらは横浜のセレクトショップ「Euphonica」の店主で、僕の友人でもある井本氏のツイート。
90年代当時のカタログにも「ストレート」と書いてあります。ただし「ピッタリのジーンズ」という表記の505も見受けられる。
他にも、Levi'sについて調べるとかなりの確率で引っかかる、めちゃくちゃ詳しい個人サイトによると
505は、501より若干細身ですが、極端に細いわけではありません。
シルエットは、どちらもスタンダードなストレートです。
505Cは、明らかなスリムフィットですが、505は60年代、70年代、そして今も基本的に近年を除けば、極端に太くも細くもないスタンダードなストレートです。
この方はおそらく、それなりにヴィンテージの実物も見られているかと思いますが、そんな方も505をスリム/テーパードとすることに異議を唱えています。
要するに505って、腰まわりと腿まわりが太くてゆったりしているので、そこから見ると膝下が細く見えるというだけであって、決してテーパードではないんですよ。
ではなぜ、505はスリムフィット/テーパードという定説が広まって、今もみんな洗脳されたままなのか?という疑問が湧きます。
その答えは半分憶測で半分は実体験になるのですが、おそらく80年代~90年代あたりに裾が細くなったスリムタイプの505が存在し、それなりに普及していたからではないかと思うのです。
というのも、以前持っていたもののサイズアウトしてしまって手放した505の中に、たしかにテーパードのスリムフィット・モデルもあったのです。
先に引用した2つに、そのヒントもあると思っています。
まず日本のカタログのほうには、「ピッタリのジーンズ」という表現があります。決してゆったりではない。
そして2つめの引用元を読んでいると、「同じ品番でもそれに紐づいた派生モデルがたくさん存在している」ということが読み取れます。
実際に、カタログを紹介したEuphonicaさんのスレッドには、こんなものもありました。
17品番がアメリカ企画、W品番が日本企画品と思われます。
— Euphonica 横浜仲町台の洋品店 (@Euphonica_045) 2021年4月19日
この2型の説明文を読むと判る通り、どちらもアメリカ製なんですけど、W品番はサイズ表示がインチでなく号数なんですよね pic.twitter.com/jWUgG5JCjs
このレディース・モデルの “17505-02” には「究極のテーパード・ストレート」というキャッチコピーが付き、伝統のストレートをベースにしながらテーパードさせたということがハッキリと書かれています。
以上から推測するに、スリムフィットが流行した80年代~90年代初頭に、
① 505の品番を冠したスリムフィット・モデルが存在した
② 505がスリムフィットで生産されていた時期があった(※特に日本流通モデルにおいて)
のいずれかの理由によって、それがそこそこ売れたため、「505はスリムもしくはテーパードである」という認識が広まったのではないか? と思うのです。
いやー、僕が持っていた裾がキュッとした505、売らずに残してればよかったんですけどね。USA製ながらケミカルに近いストーンウォッシュで、明らかに裾が細かったのです。今でいうスキニー並みに。
その他にももう一本、日本語タグが付いた普通の505も持ってて。それもたしかにテーパードしてた記憶なんですよ。
そういったこともあり、その時代の記憶がベースにある人たちによって、その後「505はテーパードしたスリムフィットである」という誤認が広まったのでないか?というのが僕の推測です。
でもですよ。
僕みたいに505を実際に穿いてみれば、テーパードなんてしていない(=膝から下がストレートで、裾がすぼまっていない)ということには簡単に気づけるはずなんです。しかも鏡をちゃんと見てコーディネートすれば特に。
人の先入観はというものはそれほどまでに強いということの現れではありますが、メディアや古着屋などの洋服を生業とするような人たちがそこに気付いていないならば、ただ鈍感なだけであって、怠慢極まりないと思うんですね。
そんなところで気になったのが、いま若者を中心に支持を得ている気鋭のオンライン古着ショップ「anytee」。
ここが、「90年代の大きめなUSA製505を絞って穿くと、裾がすぼまってるからスラックスみたいになってナウい(※意訳)」と大ボラを吹いて、相場とはかけ離れた桁違いな高値を付けて無駄に煽りまくっているのを目にしたわけです。
ヴィンテージデニムの価格が高騰する中、急速に数が減ってきているのが80-90sの505です。
[人気の理由]
1.シルエットが美しい
いまや501より505の方が人気があるかもしれません。501の土管型の太い"ストレート"ではなく、裾にかけて細くなっていく"テーパード"というシルエットが魅力。
股下が多少長くても裾幅が狭いため"たまり"と呼ばれるクッションができるため、ニューバランスやナイキなどボリュームがあるスニーカーとの合わせやすさがウケています。
2.日常的に履ける金額帯で"まだ"買える
60-70sのビックEや66モデルは10万円以上するため、日常的に履ける価格帯に人気が集まってきています。
なお、2000年代以降のUSA製ではないタイプは生地感が薄くしなやかになってしまうため、良い色落ちや風合いが期待できません。
[505はサイズアップして履くのがポイント]
今回特集する品々は、生地感や色落ちの美しさと言ったクオリティの高いデニム、かつ、ウエストサイズも太めでレングスは長すぎないタイプを厳選。ヴィンテージデニムはサイズによって半額にもなれば2倍にもなる、サイズが重要な商品です。
W30-32くらいのデニムをこれまで履いてきた方でも、今っぽく履けるサイズ感の品を早めに手に入れ、505をサイズアップして履く美しいシルエットを。
※下線は当方によるもの
どうですか? これ。
僕が先に述べた、「505はテーパードしておらず、腰回りにゆとりがあるストレートである」という言い分のほうが事実であれば、anyteeが言っていることは嘘八百だということになります。
大体 “たまり” とやらは、裾が極端に細くなっていない限りできるはずがありません。
しかも、00年代以降のものは生地が薄くなっているとまで言っている。僕が新品を買ったときに感じた「現行505は501よりも生地が厚い」という感想とも真逆です。
ここのオーナーを調べてみるとどうも僕より年上で、90年代前半頃に青春時代を送っていた世代っぽいんですよね。完全に先に述べた、かつてのスリム時代の505のイメージが先入観として残っている世代じゃないですか。
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▼追記
この505の件、僕はここに書くよりも先にTwitterで指摘をしていたのですが、anyteeがフィナムで連載しているブログに、僕への反論ではないか? と思われる投稿がありました。
これを読むと、若干納得できるところがありました。たしかに90年代の505は、オリジナルレングスの場合に限り、サイズが大きくなればなるほどテーパード具合が目立つという可能性は大いにあります。
ただし結果的に501と裾幅が変わらないのであれば505だけが “たまる” ということはないはずなので、その点についてはまだ異論を挟む余地はあると思っています。
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さて。じゃあ「あんたもあんたで偉そうに言ってるけど、実際505ってどんな形をしているのよ? テーパードしてない証拠はあるの?」ということになると思います。
証拠もなにも、僕が持ってる505を見ればいいじゃないですか。
とりあえずすぐ出せるのはこの3本。
左から
・00's カナダ製
・10's 現行
・80's末のUSA製
です。
今回、anyteeが取り上げて高値を付けているのは80~90年代のUSA製とのことなので、一番右を見ていきます。
しかもちょうどお誂え、こちらも38インチ表記の大きめサイズとなっております。
88年12月製造ですかね。
実寸を見ていきましょう。
ウエスト幅は約46cm
ワタリ幅は、縫い目と縫い目の間を取る形で測って、30cm
裾幅も同様に縫い目から縫い目までを測り、19.5cmといったところ。
では、サイズ表記は違いますが、ウエスト実寸が同じくらいの90年代USA製501も見ていきましょう。
ウエスト幅、約45cm
ワタリ幅は29cm
裾幅は19cm
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■505(80's USA製)
腰幅:46cm
ワタリ幅:30cm
裾幅:19.5cm
■501(90's USA製)
腰幅:45cm
ワタリ幅:29cm
裾幅:19cm
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はい、ほぼ一緒です。
505のウエストが1cm大きいのに応じて他の箇所もちょっとだけ大きめですが、比率はほぼ変わりありません。
そうです。裾幅も同じです。
501も505も裾幅は同じなのに、505だけが “たまり” ができるなんていうのはおかしくありませんかね?
いちおう他も見てみましょう。
こちらは2010'sのほぼ現行505。32インチ表記。
ウエスト 43cm
ワタリ幅 28cm
裾幅 18cm
続いて、90's USA製の501。34インチ表記。
ウエスト 44cm
ワタリ幅 27cm
裾幅 19cm
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■505(10's 現行 メキシコ製)
腰幅:43cm
ワタリ幅:28cm
裾幅:18cm
■501(90's USA製)
腰幅:44cm
ワタリ幅:27cm
裾幅:19cm
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現行505の裾幅が若干細い。
とはいえ実はこの2本はそれぞれサイズ表記もまったく違うので、あまり比較にはなりません。
いずれにせよ、たまりができるほど505の裾がすぼんでいるとは到底言えないと思います。それをオーバーサイズで穿こうものなら、裾は余計に太くなるに決まっています。
あとは単純な話、眺めればわかることなんですよ。
こちらは10'sの現行501。
先ほどの90's USA製501。
80's USA製505。
10's カナダ製505(36インチ/裾上げ済)。
このとおり、「違いなんかわからない」ということがわかります。
そして、505がテーパードして見えるとするならば、それは裾がすぼまっているのではなく、腰回りが太いから相対的に裾が細く見えているというということだと思われます。
でも、そんなもん穿けばわかるんですよ、穿けば。505のほうがゆったりしてるんですから。
というわけで、おさらい。
- 505はストレートであり、スリム/テーパードではない
- 505は501より腰回りが太めでゆったりしている
- 501も505も裾幅はあまり変わらない
- 腰回りが太いために相対的にテーパードに見える
- ただし、505のスリムモデルもしくはスリムだった時期は存在した
- 日本ではスリムモデルもしくはスリムだった時期の印象が根強い
以上が、僕が505を調べた結果でございます。
人の固定観念や先入観というのは本当に強いもので、一度思い込んでしまうと、そうではなくてもそう見えてしまうという、なんとも心理的かつ教訓めいたお話だなと考えてしまうところです。
そしてそれを疑いもせず、実際に自分の目で見て判断することもしないメディアや、誤った知識をもとに恥ずかしげもなく出まかせを言って過剰に煽るようなショップもいるという事実。
やたらレアだのこれが正解だのと、話を盛るようなところは信用しないほうがいいですよというお話。
とはいえまだまだ、505はテーパードだという認識が改まることはないと思いますけどね。まあこれを読んだ人たちだけがちょっと気に留めてくれればいいかなという感じです。
でもね、こんなもん、穿けばわかるんですよ、穿けば。それだけです。
▼この記事の続編(訂正・補足)はこちら
▼オマケ
かつて持っていた、90's USA製 未使用DEADSTOCKの505。
穿いてないのになぜか縮んじゃってメルカリで売ってしまいました。
ここの画像も参照してください。どう見たってストレートです。