僕が洋服を意識しはじめた25年ほど前から今までず〜っと、かっこいいんだかかっこ悪いんだかわからないけど、流行ることもなく、特別オシャレなわけでもなく、かといって上手く使えればそこそこカッコよくて、いつの時代も地味に存在し続けている定番ジャンパーがございます。
そのジャンパーは広く、“スウィングトップ”と呼ばれています。
しかし2000年前後でしょうか。スウィングトップは「VAN」が名付けた和製英語であるということから、“ドリズラー・ジャケット(Drizzler jacket)”と呼ばれることが多くなりました。
ところがさらにその“ドリズラー”は、ジェームス・ディーンが映画で着用したことでおなじみの、アメリカはMcGREGOR(マクレガー)社がリリースしたブルゾンの商品名であったということから、最近はその総称としてより正確な“ハリントン・ジャケット(Harrington jacket)”と呼ばれるようになってきました。
これ、たかだか10年弱くらい前の話です。
日本では正式な名称が一般化していない商品なんて、他に思いつくのはホッチキスくらいでしょうか。
僕はこの形のジャンパーが大好きでずっと着てきてきたので、間違いありません。10年前には「ハリントン・ジャケット」なんていう呼び名、まったく知られてませんでした。
インスタグラムが登場するまで、アパレル業界はまったく情報化が進んでいませんでした。
インスタ以前の2010年頃まで、アパレル業界は、海外とやり取りをする際に伝書鳩を使っていたと言われています。
ファッションと食品って結局は商材をデジタル化することができませんから、原始時代の風習が今でも残ってるんですよね。未だにFAXを使ってるらしいし。このふたつの業界って。
てなわけで、「ハリントン・ジャケット」。
BARACUTA(バラクータ)、高ぇぇぇぇぇ!
なんでこんな値段になってんの!? 昔は2万円台だったでしょ!?
正直、こんなオジンジャンパーに4~5万円も出すもんじゃないですよ。着ても特別暖かいわけでもないし。
ブランドを重視する物好き以外買わないんじゃないの?
マクレガーのドリズラーはコレね。
日本でバラクータを語らせたら右に出る者はいないであろう玉木店長が営まれている三軒茶屋の名店「SEPTIS」の別注ですね。
とんでもない情報量で日本のカジュアルウェア史をまとめた玉木店長のブログはこちら↓
さて。このハリントン・ジャケットと言えば真っ先に思い起こされるのが、イギリスの「モッズ」と呼ばれたムーブメントですよね。
わからない人は、Googleの入力欄に「モッズ」と入力してボタンを押してください。コンピューターやスマートフォンが教えてくれます。
モッズで有名なのは、「THE JAM」や「THE STYLE COUNCIL」というバンドに在籍したミュージシャン、ポール・ウェラー(Paul Weller)という人です。
ポール・ウェラーさん、とてもかっこよくバラクータのG9を着こなしていますね。
注)この画像は、某ファッション系webメディアのスタッフブログにあった「電車でポール・ウェラーと遭遇した!」という内容の記事から拝借いたしました(現在は削除されています)。当時、そこそこ話題になりました。
90年代のイギリスで、「ブリット・ポップ(BRIT POP)」という音楽のムーヴメントが起こり、ここ日本でも隆盛を極めました。僕はそれが大好きだったので、そのミュージシャンたちがよく着ていたジャージーやハリントンジャケットにとても憧れていました。
でも僕がハリントンジャケットを着出したのは、それより少し後の2000年頃でした。
大学時代は千葉市に住んでいて、当時の千葉には「LUMIERE(リュミエール)」というセレクトショップがありました。
そのお店があまりに好きすぎて、何も買えなくても週一で遊びに行っては商品を眺め、店員さんとお話をするという生活を送っていました。
そこで扱っていたのが、『merc(メルク)』というロンドンのモッズ系ブランドのハリントンジャケット。これまで着用したハリントンの中で一番思い入れが強いのがココんちです。
ちなみにこのブランド、当時は紙タグにoasisのライブ写真を使ってまして。まだ肖像権という概念がさほど取り沙汰されていなかった当時でも「これ絶対に未許可でしょ? ヤバくね?」なんて店員と話していたものです。
Made in Englandにもかかわらずお値段は9,800円。ベージュ・ネイビー・黒の3色展開でした。
仲の良かった店員さんが、そのハリントンジャケットに James Mortimer (ジェームス・モルティマー)のロンドンストライプのシャツとTricker'sのカントリーブーツを合わせてて、それはそれはかっこよかった。自分もそのうち買おうと思っていたものの、一人暮らしの大学生にはたかが1万円もすぐには出せず、そのときは買いそびれてしまいました。
その後、上野の名店「玉美」へ行った際にセール品として半額で売られているのを発見し、即購入。30歳前くらいまで愛用していたんじゃないでしょうかね。
てなわけで、オリジナルにこだわるならバラクータですが、ハリントンジャケット自体はイギリスの国民服みたいなもので、特別にオシャレというわけでもない大衆向けのジャンパーだと思います。
そんなものに5万円も出すなんてアホらしい。買い直すならmercみたいな後続ブランドで十分なんじゃないの? と思っていたら、その merc、まだありました!
カラバリも豊富。 値段は当時の倍ですねえ。仕方ないか。
生産国は不明。さすがにもうイギリスではなさそう……。
とはいえmercもそこそこ歴史のあるファッションブランドだし、バラクータじゃなくても全然こっちでよくね? って感じです。
しかし、さらに調べていると、そのmercよりも安いうえに、なんとイギリス製のハリントンジャケットが流通していることがわかったのです。
いやー、コレで全然良いでしょ。無難にカッコイイし。何より「MADE IN ENGLAND」っていう文字に痺れますよね。まだまだ知らないブランドってあるもんだなあ。
良いなあ。欲しいなあコレ。
なのですが実はこれ、結構怪しいんじゃないかなと。
「ALEX JONES」というブランド名で検索しても、イギリス本国でそれっぽいのが引っ掛かってこないんです。
ということは、日本の会社のオリジナルブランドの可能性があるのではないかと。
日本のインポーターがこの商品を企画して、イギリスのファクトリーで作らせてるというパターン。これは結構有り得ると思います。
もしくはイギリスのファクトリーによるオリジナル商品で、日本で展開するにあたって適当にブランド名を付けた(付けられた)というパターンも考えられます。
どちらかというと後者のほうが好感持てますけどね、僕としては。
ちょうど今、ハリントンジャケットが着たいなあと思っていたところにコレを発見したので、ちょっと心が揺らいでいます。欲しいなあ。ネイビーかバーガンディ。
僕はこれまでハリントンジャケットをたくさん着てきまして。
最初に買ったのは古着の「Brooks Brothers」でした。たしかUSA製だった気がします。あれはかっこよかったなぁ。インナーにはフレンチラコステやセントジェームス、ボトムスはLevi's 505を合わせることが多かったです。
しかしサイズが小さすぎたために(XSくらいのサイズでした)結構早めな時期にサイズアウトし、残念ながら譲渡。
その次は先述した「merc」。これも飽きたり汚れたりして、のちに処分。
他には、リサイクルショップ「たんぽぽハウス」で、Van Heusen社がアメリカでライセンス展開していた時代のBARACUTA G-9を100円で発掘したことも!!
しかしサイズが大きめだったのと、そのときの気分ではなかったため、売却。オーバーサイズが流行している今なら良いサイズ感だったので、手放したことをかなり後悔しています。
最近では、メルカリで「LANDS' END」のネイビーを購入したものの、こちらもタイトめなサイズ感だったため、今の気分ではなく転売……
あ! 中学生のときには「Cosby」のスウィングトップも着てたわ!!
そんな風に僕はハリントンジャケットを何度も買っては売り、着ては手放しを繰り返してきました。
なんでだろ?
ハリントンジャケット、もしかしたらほんとは好きじゃないのかな?
きっと、春がそうさせるんだ。
あのかっこいいジャンパー、春にしか着れないんだもん。
春だけなんだよ、あのジャンパーを着たくなるのが。
桜を見ると思い出すんだ、ハリントンジャケット。
春ington jacket
春 ~spring~
春、それは出会いと別れの季節。まるで僕とハリントンジャケットのよう。
こういう夢ならもう一度逢いたい。
そうなんだよ。これ、買っても着ねえんだよな、結局。
スウィングトップ。ドリズラージャケット。ハリントンジャケット。
何なんだよ、おまえ。